熱海駅から徒歩約15分、閑静な住宅街の一角に現れる起雲閣は、大正から昭和にかけての贅を尽くした建築美と豊かな庭園が今も息づく、熱海を代表する文化観光施設です。訪れる者を異次元の時間へと誘う、熱海観光の外せない名所です。
熱海の三大別荘と呼ばれた名邸の誕生
起雲閣の歴史は、1919年(大正8年)にさかのぼります。当時の熱海は、財界の重鎮や皇室関係者が競うように別荘を構えた、いわば「選ばれた人々だけの聖地」でした。そのような時代に、実業家・内田信也によって築かれたのが起雲閣の前身となる別荘です。
敷地内には、日本家屋の落ち着きと繊細さを体現する和館と、日本・中国・欧州など多様な建築様式を巧みに融合させた洋館が共存しており、創建当初から類まれな個性を放っていました。その豪壮さと美しさは熱海の別荘文化を象徴するものとして、当時から「熱海の三大別荘」の一つに数えられていました。三大別荘とは、起雲閣のほか、住友家の別荘、山下財閥の別荘を指しますが、現存してその面影を今日に伝えるのは起雲閣だけです。
三代の所有者が育てた空間
内田信也の手を離れた後、起雲閣は実業家・桜井兵五郎の所有となり、増改築が重ねられました。この時代に洋館部分がさらに充実し、ローマ風浴室をはじめとする個性豊かな室内空間が加えられていきます。その後、1947年(昭和22年)には実業家・山田実が取得し、旅館「起雲閣」として一般に開放。昭和の文豪や著名人たちが足繁く通う宿として、新たな歴史を刻み始めました。
2000年(平成12年)には熱海市が取得し、翌年に文化観光施設として整備・公開。以来、多くの観光客に親しまれています。建物の多くは国の登録有形文化財に指定されており、建築的・歴史的価値の高さが公的にも認められています。
見どころ:多彩な建築と名作家たちの足跡
起雲閣の最大の魅力は、一つの敷地に複数の建築様式が混在するその多様性にあります。和館の「麒麟」「大鳳」「玉姫」をはじめ、洋館の「金剛」「玉渓」「孔雀」など、それぞれ異なる表情を持つ部屋が点在しています。なかでも「ローマ風浴室」は、タイル張りの壁面と半円アーチが印象的な異空間で、訪問者の目を引く人気スポットです。
また、起雲閣は日本文学の歴史とも深く結びついています。旅館時代には太宰治、志賀直哉、谷崎潤一郎、山本有三、川端康成といった昭和を代表する文豪たちが逗留し、作品を執筆した場所としても知られます。館内には彼らの写真や直筆資料、ゆかりの品々が展示されており、文学ファンにとっても見応えのある空間となっています。それぞれの文豪が愛した部屋の雰囲気を肌で感じながら、名作が生まれた時代に思いを馳せることができます。
庭園の美しさと四季の楽しみ方
建物と同様に見逃せないのが、起雲閣の庭園です。日本庭園の様式を基調としながら、池を中心に木々や石組みが巧みに配置されており、季節ごとに異なる表情を見せます。
春は梅や桜の彩りが庭を包み、訪れる人々を和やかな気持ちにさせます。梅の名所としても知られる熱海で、起雲閣の庭の梅は格別の風情を醸し出します。夏には緑が濃くなり、木陰と池の涼やかな雰囲気が都会の喧騒を忘れさせます。秋は紅葉が建物の白壁や瓦屋根と美しいコントラストをなし、写真映えするシーンが随所に生まれます。冬は落葉した木々の向こうに凛とした建物の輪郭が浮かび上がり、静謐な美しさが際立ちます。
季節を問わず、庭園をゆっくり散策しながら建物の外観を眺めるだけでも十分に価値があります。時間に余裕があれば、庭園の縁側に腰を下ろし、その場の空気を感じながらひとときを過ごしてみてください。
アクセスと周辺観光情報
起雲閣へのアクセスは、JR・伊豆急行「熱海駅」から徒歩約15分。熱海駅前からバスも利用でき、「起雲閣前」バス停で下車すればすぐです。熱海は首都圏からも新幹線や在来線で気軽に日帰り訪問できる距離にあり、東京駅からは新幹線で約40分という好立地も魅力です。
周辺には熱海の観光スポットが点在しており、起雲閣と合わせて楽しむコースを組みやすいのも特徴です。熱海サンビーチや熱海城、MOA美術館など個性豊かな施設が揃っており、特にMOA美術館は起雲閣と同様に文化・芸術的価値の高い展示で知られます。熱海の温泉街を散策しながら、新鮮な海の幸を提供する飲食店や土産物店に立ち寄るのもおすすめです。
起雲閣の開館時間は9時から17時(入館は16時30分まで)で、水曜日が定休日となっています。入館料は大人900円(市内在住者は半額)。館内のカフェでは庭園を眺めながら休憩することもでき、観光の合間にゆったりと過ごせます。歴史と文化が凝縮されたこの空間を、ぜひ時間をかけてたっぷりと味わってみてください。
アクセス
熱海駅から徒歩圏内
営業時間
料金目安