函館の街を歩いていると、赤レンガ倉庫群へ向かう道のほとりに、ひとつの無骨な電柱が静かに立っている。一見すると地味な存在だが、実はこれ、大正12(1923)年に建てられた日本最古のコンクリート電柱だ。100年以上の歴史を刻みながら、今もなお現役として電気を送り続けている。
日本最古の証人――大正12年に誕生した電柱
この電柱が建てられたのは、大正12(1923)年のこと。現在から100年以上前にさかのぼる話だ。函館の街を長年支えてきた金融機関・北海道拓殖銀行の函館支店が、鉄筋コンクリート造りの新築建物を完成させた年と同じタイミングで、この電柱は誕生した。
建設の経緯はやや特殊で、銀行建物との景観的な釣り合いを取るために、北海道拓殖銀行が費用を負担し、当時の函館水電株式会社(現在の北海道電力)が実際の建設を手がけた。つまり、一般的な公共インフラの整備ではなく、都市美観を意識した特別な取り組みとして設けられたのが、この電柱だったのだ。
国内で「日本最古」と認められるコンクリート電柱が、ここ函館に現存している事実は、多くの歴史好きや建造物ファンにとって見逃せない価値を持つ。
「夫婦電柱」と呼ばれた2本の電柱
もともとこの電柱は単独で立っていたわけではなく、拓殖銀行の建物を挟むようにして、もう1本の同型電柱が向かい側にも建てられた。対になって立つ姿から、地元の人々はこの2本を「夫婦(めおと)電柱」と呼んで親しんできた。
しかし、歳月とともに片方の電柱は取り壊されてしまい、現在その場所に立つ電柱は平成時代に新たに作られたものだという。夫婦のうち、大正時代からの「本物」として残っているのは、この1本だけだ。現存する大正期の電柱が今も稼働しているという事実には、函館という街の歴史の深さと、文化財を大切にしてきた人々の姿勢がにじみ出ている。
当時としては革新的だった「角柱形」のデザイン
現代の私たちにとって電柱はありふれた存在だが、大正時代の電柱はほぼすべてが木製の円柱形だった。鉄筋コンクリートを使った電柱自体がまだ珍しかった時代に、さらにこの電柱は「角柱形」という特異なフォルムを採用している。
この異色のデザインには、ふたつの明確な理由があった。ひとつは、隣接する拓殖銀行の建物との景観的な調和。重厚な石造り・コンクリート造りの銀行建物に合わせるため、丸みのある木製電柱ではなく、直線的で堅牢な角柱形が選ばれた。
もうひとつの理由は、函館という街の地理的・歴史的な事情だ。函館は江戸末期から明治・大正にかけて幾度も大規模な市街地火災(大火)に見舞われてきた都市として知られており、木製素材の使用をできる限り避けたいという意識が当時から強かった。燃えにくいコンクリート造りを選んだことは、単なるデザインの問題ではなく、防火対策としての現実的な判断でもあったのだ。
函館の歴史的景観に溶け込む場所に立つ
この電柱が立つのは、函館を代表する観光エリアのひとつ、末広町(住所:函館市末広町15-1付近)だ。二十間坂(にじゅっけんざか)を下りきった先、赤レンガ倉庫群へと続く通り沿いに位置しており、観光客が集まるエリアのただなかにさりげなく存在している。
周囲には明治・大正期に建てられた洋風建築や石畳の坂道が広がり、歴史的な街並みが今も色濃く残るエリアだ。こうした景観のなかに100年前のコンクリート電柱が溶け込んでいる光景は、函館の街の歴史的な積み重ねを象徴しているともいえる。市電「十字街」電停から徒歩約3分という好立地で、赤レンガ倉庫群や元町エリアの散策とあわせて訪れやすい。
現役で使われ続けるという驚き
日本最古のコンクリート電柱として最も驚かされるのは、単に「残っている」だけでなく、現在も実際に電気を供給する現役設備として機能し続けている点だ。博物館に保存・展示されているわけではなく、街のインフラの一部として日々の役割を果たしながら、100年以上の歴史を刻んでいる。
大正時代の技術で作られた構造物が、令和の時代においても実用品として稼働しているという事実は、コンクリート建造物の耐久性を証明するとともに、この電柱自体の卓越した施工品質をも物語っている。函館の街が育んできた技術と歴史の結晶として、静かにその場所に立ち続けている姿には、独特の感動がある。
アクセスと訪れ方のヒント
アクセスは市電「十字街」電停から徒歩約3分と非常に便利だ。函館の観光エリアは市電を使って効率よく回ることができるので、赤レンガ倉庫群や元町周辺の散策と組み合わせるのが定番のルート。
電柱自体には駐車場はなく、周辺の有料駐車場を利用することになる。観光シーズンは周辺が混雑することもあるので、市電や徒歩での訪問がスムーズだ。また、外観を見るだけなので観覧料は不要。通りすがりに立ち寄れる気軽さも魅力のひとつだ。函館を訪れた際には、観光ガイドには載りにくいこのさりげない「日本一」を、ぜひ自分の目で確かめてみてほしい。
アクセス
市電「十字街」電停から徒歩3分
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