東京都葛飾区柴又は、映画『男はつらいよ』シリーズで全国に知られる下町の聖地です。帝釈天の参道から江戸川の河川敷へと足を延ばせば、江戸時代から続く手漕ぎの渡し船「矢切の渡し」が旅人を待っています。都心からわずか30分で、時間の流れが変わるような体験ができる場所です。
寅さんの町・柴又の歴史と文化
柴又の歴史は古く、江戸時代以前から帝釈天(経栄山題経寺)の門前町として栄えてきました。帝釈天は1629年(寛永6年)創建と伝えられ、縁日(毎月3・13・28日)には多くの参拝客で賑わいます。特に本殿の「彫刻ギャラリー」は必見で、日本の彫刻師たちが10年以上かけて刻んだ精巧な木彫り彫刻が回廊を飾り、法華経の説話を生き生きと描いています。
この地が全国的な観光地となったきっかけは、1969年から1995年にかけて制作された映画『男はつらいよ』シリーズです。主人公の車寅次郎(寅さん)が旅から戻るたびに帰ってくる「とらや」(作中では「くるまや」)の舞台が柴又であり、参道には今も映画のセットを思わせるような昭和の風情が色濃く残っています。2019年には寅さんを演じた渥美清氏の銅像と、マドンナを演じた倍賞千恵子氏をモデルにした「さくら」の銅像が設置され、ファンの記念撮影スポットとして親しまれています。
帝釈天参道の歩き方
京成柴又駅を降りると、正面に寅さんの銅像が迎えてくれます。駅から帝釈天まで続く参道は約200メートルと短いながら、両側には草だんご屋や佃煮店、せんべい屋など昔ながらの商店が並んでいます。柴又名物の草だんごは、よもぎをたっぷり練り込んだ緑色のだんごに粒あんが乗った素朴な味わいで、江戸時代から続く老舗がそれぞれ独自のレシピを守っています。食べ歩きしながら参道を進めば、帝釈天の立派な山門が見えてきます。
境内に入ると、彫刻が施された瑞龍の松、邃渓園(すいけいえん)という池泉回遊式庭園など、見どころが点在しています。邃渓園は入園料が必要ですが、手入れの行き届いた日本庭園と帝釈堂の背景が絵のように美しく、静かな時間を過ごせます。
矢切の渡し――江戸から続く渡し船
帝釈天を参拝した後は、徒歩約10分の江戸川河川敷へ向かいましょう。そこに待っているのが「矢切の渡し」です。江戸時代初期から続くとされるこの渡し船は、農民が農作業のために利用していたのが始まりといわれています。東京都内に現存する数少ない渡し船のひとつであり、その歴史的価値から「東京都選定歴史的建造物」にも準ずる文化的景観として守られています。
船頭が一艘ずつ丁寧に手で漕ぐ木船に乗り込むと、エンジン音のない静寂の中で江戸川をゆっくりと渡ります。片道数分の短い船旅ですが、川面を渡る風と水の音だけが響く時間は、スマートフォンの通知も忘れさせてくれます。対岸は千葉県松戸市の矢切地区。船賃は大人200円と手頃で、子ども100円です(料金は変動する場合があります)。
矢切の渡しは1983年に細川たかしが歌った演歌『矢切の渡し』のモデルとしても有名で、また明治時代の小説家・伊藤左千夫の『野菊の墓』の舞台としても知られています。文学や音楽を通じてこの地を知っていた方には、より感慨深い体験となるでしょう。
季節ごとの楽しみ方
柴又と矢切の渡しは、四季それぞれに異なる表情を見せます。
春(3〜4月)は江戸川の土手に桜が咲き誇り、花見客で河川敷が賑わいます。矢切の渡しの船上から眺める桜並木は格別で、ピンクに染まった土手と青い空の対比が美しい写真スポットになります。
夏(7〜8月)は葛飾納涼花火大会が開催される時期で、江戸川の広い川面に大輪の花火が打ち上げられます。河川敷は絶好の観覧スポットとなり、地元の人々と一緒に夏の夜を楽しめます。ただしこの時期は混雑するため、早めに場所を確保することをおすすめします。
秋(10〜11月)は観光のベストシーズンです。空気が澄んで遠くまで見渡せるため、渡し船からの眺めが特に清々しく感じられます。参道の草だんごと温かいお茶を味わいながら、ゆっくりと秋の柴又を歩くのも趣があります。
なお、矢切の渡しは基本的に年中運航していますが、荒天時や増水時は運休となります。冬季(12〜2月)は土日祝日のみの運航となる場合が多いため、事前に確認してから訪れることをおすすめします。
アクセスと周辺情報
柴又へのアクセスは、京成金町線「柴又駅」が最寄り駅です。京成上野駅から京成本線で高砂駅まで行き、金町線に乗り換えて1駅、所要時間は約30〜40分です。JRを利用する場合は常磐線金町駅から徒歩または京成金町駅経由が便利です。
周辺には「山本亭」という大正末期から昭和初期に建てられた和洋折衷の邸宅と日本庭園も公開されており、柴又帝釈天と合わせて訪れると充実した半日観光が楽しめます。また、江戸川を渡った千葉県側の矢切地区は、のどかな田園風景が広がるエリアで、渡し船を降りた後に散策するのもよいでしょう。
柴又は昼間の観光が中心ですが、参道の食べ歩きから始まり、帝釈天の参拝、矢切の渡しでの川渡りまで、歴史と文化を体全体で感じられる場所です。東京にいながら、江戸の風情と昭和のノスタルジーが重なるこの空間に、ぜひ一度足を運んでみてください。
액세스
京成金町線柴又駅から徒歩10分
영업시간
10:00〜16:00(不定休・冬季は土日のみ)
예산
200円(片道)