日本の片隅に、世界が注目する小さな町がある。徳島県上勝町——人口1,500人に満たないこの山間の集落は、2003年に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を採択し、今やサステナビリティの聖地として世界中から視察者や旅人を惹きつけている。そんな町で生まれたクラフトビール体験は、単なる醸造見学ではなく、私たちの暮らしと地球のあり方を問い直す旅だ。
ゼロ・ウェイストの町・上勝町とは
上勝町は徳島市内から車で約1時間、急峻な山々に抱かれた棚田と清流の里だ。高齢化と過疎化が進む一方、この町は2003年に「2020年までにごみゼロを目指す」というゼロ・ウェイスト宣言を日本で初めて採択した。その取り組みの核心にあるのは、45種類にも及ぶ徹底した分別システムだ。燃えるごみ・燃えないごみという大まかな区分ではなく、アルミ缶・スチール缶・透明ガラス・茶色ガラス・段ボール・新聞紙……と細分化された分別を、住民一人ひとりが実践する。
その成果として、上勝町のリサイクル率は80%以上を達成している。日本全国の平均が20%程度であることを踏まえれば、この数字がいかに驚異的かがわかる。残る廃棄物の削減に向けた取り組みも続いており、「ゼロ・ウェイスト」は単なるスローガンではなく、住民の生活文化として深く根付いている。
RISE & WIN Brewing Co. の誕生
この精神から生まれたのが、上勝町内にあるクラフトブルワリー「RISE & WIN Brewing Co.」だ。ブルワリーが入る建物自体が、町内から回収された廃材や古材を活用して建てられており、建築そのものがゼロ・ウェイストの思想を体現している。訪れた瞬間から、その土地の哲学が空間全体に染み渡っていることが伝わってくる。
醸造に使われる水は、剣山山系から流れ込む清冽な山の水。上勝の豊かな自然環境が、ビールの味わいの根底を支えている。さらに特筆すべきは、地域の農家と連携して調達する地場食材の活用だ。上勝を代表する柚子をはじめ、山椒、梅、ヒノキなど、四国の山里ならではの素材がビールに独特の個性を与えている。
体験プログラムの内容
ブルワリー体験では、まず醸造工程の見学から始まる。麦芽の糖化から発酵・熟成まで、クラフトビールが出来上がるプロセスをスタッフの解説付きで学ぶことができる。単に「見る」だけでなく、なぜこの土地でこのビールが生まれたのか、素材選びに込められた思想、廃棄物を最小限に抑えるための工夫——そうした背景にまで踏み込んだ説明が、体験の奥行きを深める。
見学の後には、季節ごとに変わるラインナップの試飲が待っている。柚子の爽やかな香りが広がるホワイトエール、山椒のスパイシーさが際立つIPA、地元の梅を使った酸味豊かなサワーエール……どれも上勝の風土と素材が生み出す、ここでしか飲めない一杯だ。ビールの苦手な人向けにノンアルコールの選択肢が用意されていることも多く、幅広い旅行者が楽しめる。
体験と並行して、上勝町のゼロ・ウェイストの取り組みについてのレクチャーも行われる。45分別の仕組み、リサイクル率を高めるための住民の工夫、そして「ゼロ・ウェイスト」が生まれた歴史的背景——知れば知るほど、この小さな町への敬意が湧いてくる。
季節ごとの楽しみ方
上勝町は四季折々に異なる表情を見せる。春は棚田に水が張られ、山の新緑と相まって鮮やかな風景が広がる。ビールのラインナップにも春らしい素材が登場し、軽やかな季節のエールが楽しめる。
夏は緑深い渓谷沿いを散策しながらブルワリーへ向かう道中が清涼感に満ちている。地元産の柚子を絞った爽快なビールは、蒸し暑い四国の夏を一気に吹き飛ばしてくれる。秋は上勝の棚田黄金色に輝く時期。周囲の山が紅葉に染まる中でいただくビールは格別で、山椒や地元きのこを使った秋限定の醸造も見逃せない。冬は澄んだ冷気の中、体を温めるスタウト系のビールが中心となり、焚き火を囲む特別イベントが開催されることもある。
周辺エリアの見どころ
ブルワリー訪問に合わせて立ち寄りたいのが、町の中心部にある「上勝ゼロ・ウェイストセンター(通称:WHY)」だ。廃棄物の分別を学べるだけでなく、不要品をリユースする「くるくるショップ」や地域の情報発信拠点として機能しており、上勝のゼロ・ウェイスト文化を総合的に体感できる施設だ。
また、上勝町は「葉っぱビジネス」でも有名だ。高齢の農家の方々が料理の飾りに使う「つまもの」(葉や花など)を出荷するビジネスモデルで、地域経済の活性化と農家の生きがいづくりを両立した取り組みとして国際的にも評価されている。町を歩けば、こうした生き生きとした地域づくりの現場に自然と出合える。
勝浦川沿いの渓谷美も上勝ならではの魅力。清流でのほとりを散歩しながら、普段の生活では感じられない静寂と自然のリズムに身を委ねてほしい。
アクセスと訪問のヒント
上勝町へのアクセスは、JR徳島駅または阿南駅からバスを利用する方法と、車でのアクセスが主流だ。徳島市内からは国道438号経由で約1時間。山道が続くため、レンタカーを利用する場合は運転に余裕を持ったスケジュールを組むとよい。
ブルワリー体験は事前予約が推奨されており、特に週末や連休は早めの申し込みが安心だ。体験は日本語対応が基本だが、外国人旅行者向けの英語ガイド対応も増えている。滞在時間は見学と試飲を含めて1〜2時間程度を想定しておくとよい。
日帰りも十分可能だが、できれば一泊して町の朝の空気を味わいたい。上勝の夜は驚くほど静かで、満天の星が頭上に広がる。翌朝、棚田に朝霧がたなびく光景を眺めながら、ゼロ・ウェイストという思想と上勝の人々の暮らしが深く結びついていることをゆっくりと感じ取ることができるだろう。
액세스
JR徳島駅から車で約60分
영업시간
11:00〜17:00(要予約)
예산
2,000〜4,000円