北海道の屋根・大雪山系の最深部に鎮座するトムラウシ山(標高2,141m)は、登山者たちが「一生に一度は登りたい」と語る憧れの山だ。人里から遠く離れた秘境の地に立ちながら、日本百名山に数えられるその山容は、北海道の大自然が凝縮された別格の存在である。
大雪山系の「奥座敷」が意味するもの
トムラウシ山が「大雪山系の奥座敷」と呼ばれるのは、単なる地理的な奥深さだけを指すのではない。大雪山系は北海道中央部に広がる日本最大の山岳地帯であり、旭岳(2,291m)を最高峰とするその山塊は「北海道の屋根」とも称される。その広大な山系の中でも、トムラウシ山はとりわけアクセスが難しく、登山者が長い時間をかけてようやくたどり着く場所に位置している。
アイヌ語で「トムラウシ」は「花の多い場所」を意味するとも、「湯の湧き出る場所」を指すとも言われる(諸説あり)。いずれにせよ、アイヌの人々がこの山に特別な名を与えたことは、古くからその地が神聖な場として認識されてきたことを示している。近代的な登山道が整備された現代においても、この山を訪れるためには十分な体力と計画が求められる。それがトムラウシ山の孤高の魅力をいっそう際立たせている。
登山コースの概要と難易度
トムラウシ山への主なアクセスルートは大きく分けて二つある。最も利用者が多いのが**短縮登山口(トムラウシ温泉側)からのルート**で、標準コースタイムは往復約10〜12時間。一方、東大雪側の**トムラウシ公園方面から入るルート**は登山口へのアクセスがさらに遠く、上級者向けと言える。
いずれのルートも、長い行程と変わりやすい天候への対応が求められる本格的な山岳登山だ。岩場と湿原が交互に現れるコースを歩けば、カムイ天上(カムイてんじょう)と呼ばれる台地状の尾根に出る。ここからは360度の大展望が開け、遠くに旭岳や十勝岳連峰を望む景色が登山者を出迎える。コマドリ沢を経て南沼のキャンプ地に至ると、山頂はすぐそこだ。
この山では2009年7月、悪天候の中を下山しようとした登山者8名が低体温症で亡くなるという痛ましい遭難事故が発生している。以来、この事故は日本の夏山遭難の教訓として広く知られるようになった。夏でも気温が急変し強風が吹き荒れることがある高山であることを、訪れる者は常に念頭に置かなければならない。
高山植物の楽園―「花の百名山」の真骨頂
トムラウシ山が「花の百名山」(田中澄江著)にも選ばれていることは、登山者の間では広く知られている。7月中旬から8月上旬にかけて、山の斜面や湿原はさまざまな高山植物で彩られる。エゾコザクラ、チングルマ、ハクサンイチゲ、エゾツツジ、キバナシャクナゲ――色とりどりの花々が短い夏を謳歌する様子は、まさに「お花畑」という言葉がふさわしい光景だ。
特にコマドリ沢周辺から南沼にかけての湿原地帯では、登山道の両脇に花が密集して咲き乱れ、歩みを止めて見入ってしまう登山者も少なくない。北の高山の短い夏に命を輝かせる植物たちの姿は、長い時間をかけてここまで歩いてきた者だけが目にできる特別なご褒美である。
また、トムラウシ山の周辺にはヒグマやエゾシカ、キタキツネなどの野生動物も生息している。登山中に動物の痕跡(足跡や糞)を見かけることもあり、野生の北海道を肌で感じられる場でもある。クマ鈴の携帯は必須であり、早朝や夕暮れ時の単独行動は特に注意が必要だ。
季節ごとの表情
**夏(7月〜8月)**は登山のベストシーズン。残雪が消え、コースが全線歩けるようになるのは例年7月中旬頃。高山植物の開花と相まって、最も多くの登山者が訪れる季節だ。日照時間が長く、早朝に出発すれば明るいうちに下山できる。ただし天候の急変は常にあり得るため、レインウェアや防寒着は夏でも必携だ。
**秋(9月)**になると、山の斜面はナナカマドやウラシマツツジが赤や黄に染まり、大雪山系随一の紅葉景観が楽しめる。9月上旬の早い年には初雪が降ることもあり、紅葉と雪のコントラストが見られる稀有な体験をする登山者もいる。登山シーズンとしては9月末が実質的な終盤となる。
**冬・春(10月〜6月)**は積雪と凍結により一般的な夏山登山は不可能となる。春山スキーや冬山登山を行う経験者はいるが、高度な技術と装備が必要な世界であり、初心者には到底勧められない。
アクセスと登山準備
トムラウシ山への玄関口となるのが**トムラウシ温泉**(東大雪荘)だ。JR石勝線・根室本線の新得駅からバス(運行期間限定)または車でアクセスする。新得駅からトムラウシ温泉まで約50km、車で約1時間20分ほどかかる。最寄りの市街地からこれだけの距離があることが、この山の「秘境感」をよく物語っている。
登山口となる短縮登山口は温泉からさらに林道を進んだ先にある。林道の一部は悪路のため、車高の高い車が望ましい場面もある。温泉宿(東大雪荘)では登山者向けの宿泊プランが提供されており、前日入りして体調を整え、早朝に出発するスタイルが一般的だ。日帰りの場合は午前4〜5時出発が目安となる。
登山届の提出は義務ではないが、北海道の山では警察や登山口のポストへの提出が強く推奨されている。食料・水・地図・コンパス・ヘッドライト・ファーストエイドキットなどの山岳装備を揃え、天気予報を複数ソースで確認した上で入山すること。トムラウシ山はその美しさと引き換えに、相応の敬意と準備を求める山だ。その厳しさを理解した上で訪れるとき、山頂から見渡す大雪山系の大パノラマは、きっと生涯忘れられない風景となるだろう。
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北海道新得町内、最寄り駅またはバス停からアクセス
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