島根県の城下町・松江は、京都・金沢と並ぶ「日本三大菓子処」のひとつとして知られる、和菓子文化の聖地です。この地で育まれた上生菓子づくりの体験は、ただ菓子をつくるだけでなく、松江という土地の精神そのものに触れる旅の時間となります。
茶の湯が育んだ、松江の和菓子文化
松江の和菓子文化を語るうえで欠かせないのが、江戸時代中期の名君・松平不昧公(治郷)の存在です。松江藩第七代藩主であった不昧公は熱烈な茶人であり、藩全体に茶の湯の精神を広めることに生涯を捧げました。茶の湯には必ず菓子が伴います。主君が茶道に傾倒するにつれて、城下の菓子職人たちは一椀の抹茶に寄り添う美しい菓子をつくることへの探求を深め、その技術は代を超えて受け継がれていきました。
不昧公が好んだとされる銘菓は今も松江市内の老舗で作り続けられており、「不昧公好み」という言葉は松江の和菓子の品質を表す最上の称賛として定着しています。彩雲堂や三英堂、風流堂といった百年以上の歴史を持つ老舗が今もなお市内各所に暖簾を掲げており、城下町の日常に和菓子が根付いていることを実感させてくれます。
上生菓子とは何か——職人の美意識が宿る芸術品
上生菓子(じょうなまがし)とは、茶席で用いられる最高格の生菓子のことです。白餡や練り切り餡を主素材として、季節の花・風景・風物詩をかたちにした小さな芸術品とも言えるもので、口にする前にまず目で楽しむことが求められます。
桜の季節には花びらの儚さを、夏には清流や蛍を、秋には紅葉や月を——職人の手のなかで生まれる上生菓子は、一年三百六十五日、その季節にしか存在しない一期一会の作品です。練り切りの表面に木串で施す繊細な筋や、食用色素で重ねる微妙なグラデーションは、美術品と呼んでもまったく過言ではありません。こうした上生菓子づくりの技を、松江の体験教室では実際の職人から直接手ほどきを受けながら学ぶことができます。
職人と向き合う、成形体験の時間
体験教室では、まず職人から上生菓子の歴史と素材についての説明を受けます。主な材料となる練り切り餡は白餡に求肥(ぎゅうひ)を混ぜたもので、程よいやわらかさと色のなじみやすさから、職人が長年愛用してきた素材です。
成形の技術は見た目よりはるかに繊細で、力の入れ加減、指先の角度、押さえるタイミングがわずかにずれるだけで仕上がりは大きく異なります。職人は何十年もかけて体に覚えさせた感覚をそのまま言葉にして伝えてくれますが、実際に手を動かしてみると、その難しさと奥深さを身をもって知ることになるでしょう。
参加者がつくる上生菓子のテーマは、季節に応じて変わります。春なら桜や菜の花、夏なら紫陽花や金魚、秋なら菊や紅葉、冬なら雪椿や干支をかたどった菓子など、そのとき松江の自然が見せている顔が、そのまま菓子のかたちになります。完成した菓子は抹茶とともにその場でいただきます。自分の手でつくり、自分でお茶をたてて(または点ててもらって)味わうこの時間こそが、松江の茶の湯文化に直接触れる瞬間です。
季節ごとの体験の魅力
松江は宍道湖に面した水の都であり、四季の移ろいが穏やかで美しい土地です。体験教室での季節感と、市内の景観や観光とを重ね合わせることで、訪れる時期ごとに異なる松江の魅力を感じることができます。
春は桜の名所として知られる松江城の濠沿いを歩きながら、桜をかたどった上生菓子づくりへ。夏は宍道湖に沈む夕日を眺め、夏の風情をテーマにした菓子を。秋は国宝松江城の石垣に映える紅葉とともに、菊や紅葉をモチーフにした菓子が楽しめます。冬の松江は雪景色が格別で、雪をまとった松江城の佇まいを目に焼き付けながら、雪をテーマにした菓子をつくるというのも、この地ならではの体験です。
また、宍道湖では日本有数のヤマトシジミ漁が営まれており、松江の食文化はシジミ汁や海産物でも知られています。和菓子体験のあとに市内の食堂で郷土料理を味わうことで、松江の食の奥行きを一日でめぐることができます。
アクセスと周辺情報
松江市内の和菓子体験教室は、老舗和菓子店が直営で開催しているケースが多く、松江城周辺や塩見縄手といった歴史的な街並みの一角に位置しています。体験は予約制が一般的で、少人数制のクラスも多いため、旅の計画段階で事前予約を済ませておくことをおすすめします。
松江へのアクセスは、東京・大阪からの飛行機利用が便利で、出雲空港(出雲縁結び空港)からリムジンバスで約45分。JRを利用する場合は、岡山駅から特急やくもで約2時間40分で松江駅に到着します。松江駅からは市内循環バス「ぐるっと松江レイクラインバス」が松江城や塩見縄手など主要観光地を結んでおり、和菓子店や体験施設へのアクセスも容易です。
松江城(国宝)、武家屋敷が並ぶ塩見縄手、小泉八雲記念館、宍道湖遊覧船といった観光スポットと組み合わせることで、松江の文化・歴史・自然を一度に堪能できる充実した旅が組み立てられます。不昧公が愛した茶の心を、自らの手で菓子をつくることを通じて感じてみてください。それは単なる観光体験を超えた、記憶に残る松江との出会いとなるはずです。
액세스
JR松江駅から市内バスで約10分「京橋」下車徒歩3分
영업시간
10:00〜12:00、14:00〜16:00(要予約)
예산
2,500〜3,500円