北海道の日高地方に位置する新冠町(にいかっぷちょう)は、全国に名を知られる馬産地でありながら、約100万枚ものレコードを収蔵する音楽施設まで備えた、ほかに類を見ない個性的な町だ。競走馬の蹄の音と、往年のレコード盤から流れるメロディーが交差するこの地を訪れれば、北海道らしい雄大な自然とともに、唯一無二の旅の記憶が刻まれることだろう。
レ・コード館:100万枚のレコードが眠る音楽の聖地
新冠町の中心部に建つ「レ・コード館」は、全国の音楽ファンや一般市民から寄贈されたアナログレコード約100万枚を収蔵する、日本でも珍しい音楽資料館だ。1993年に開館したこの施設は、単なる保存庫にとどまらず、来館者が実際にレコードを試聴できる体験型の文化施設として運営されている。
館内には専用の試聴コーナーが設けられており、昭和歌謡、演歌、ポップス、クラシック、ジャズまで、幅広いジャンルのレコードをスタッフに依頼して聴くことができる。デジタルストリーミングが当たり前となった現代に、針がレコード盤の溝をなぞる瞬間の音質と温かみは、音楽ファンでなくとも心を動かす体験だ。「あの頃の名曲をもう一度」という旅の動機として訪れるリピーターも多く、道外からわざわざ足を運ぶ愛好家も少なくない。
施設の外観は音楽をイメージしたデザインが施されており、建物そのものが地域のシンボルとなっている。ミュージアムショップでは音楽関連のグッズや地域の特産品も販売されており、旅の記念に立ち寄るのに最適なスポットだ。
サラブレッドの里:新冠町の馬産地文化
北海道の日高地方は日本有数の馬産地として知られるが、新冠町はその中でも特に多くのサラブレッドを輩出してきた地域のひとつだ。町内には大小さまざまな牧場が点在しており、春から秋にかけては牧草地に馬たちが放牧される光景が随所で見られる。
牧場が連なる道路沿いを車で走ると、柵の向こうで草を食む母馬と子馬の姿に自然と目が奪われる。4月から5月にかけては特に多くの仔馬が誕生する時期で、生まれたばかりの仔馬が草原を走り回る姿は訪れる人々の心をとらえてやまない。地元では「牧場ロード」と呼ばれるエリアを自転車でゆっくりと走るサイクリングコースも整備されており、牧歌的な北海道の風景を満喫できる。
馬産地としての新冠の歴史は明治時代にまでさかのぼる。もともとこの地域では和種馬の飼育が行われていたが、近代競馬の発展とともにサラブレッドの生産が本格化し、現在に至るまで数多くの名馬を世に送り出してきた。牧場の多くは一般公開されていないが、一部の牧場では見学を受け入れており、事前に確認したうえで訪れると、競走馬の育成現場を間近で体感する貴重な機会となる。
優駿メモリアルパーク:名馬たちへの敬意
新冠町には、日本の競馬史に名を刻んだ名馬たちを称える「優駿メモリアルパーク」がある。園内には歴代の名馬にまつわる展示や記念碑が設けられており、競馬ファンにとっては聖地ともいえる場所だ。
なかでも多くの参拝者が訪れるのが、伝説の名馬オグリキャップにまつわる墓碑だ。1980年代後半から1990年代初頭にかけての第二次競馬ブームを牽引し、日本中を熱狂させたオグリキャップは今もなお多くのファンに愛され続けている。墓碑の前には花束が手向けられ、遠方から訪れたファンが静かに手を合わせる光景が見られる。競馬を知らない旅行者であっても、これほど深く人々に愛された馬の存在を知れば、その場の空気に自然と敬虔な気持ちが湧いてくる。
パーク内は芝生が広がるゆったりとした空間で、馬の彫像や案内板が配置されている。競馬の歴史に興味がある人も、そうでない人も、のどかな雰囲気の中でゆっくりと散策を楽しめる。
季節ごとの楽しみ方
新冠町は四季それぞれに異なる表情を見せる。
**春(4〜5月)** は牧場に仔馬が次々と誕生する季節。牧草地が鮮やかな緑に染まるなか、よたよたと歩く仔馬たちの姿は格別の愛らしさだ。残雪をいただく日高山脈を背景にした牧場風景は、写真愛好家たちにとっても見逃せないシーンとなる。
**夏(7〜8月)** は爽やかな北海道の気候のもと、サイクリングや乗馬体験など屋外アクティビティを存分に楽しめる。日高地方では各地で夏祭りや馬にまつわるイベントが開催され、地域の活気を感じられる。
**秋(9〜10月)** になると、木々が色づき始め、黄金色の牧草地が広がる風景は息をのむほど美しい。競馬の秋季クラシックレースシーズンとも重なるため、競馬ファンには特に感慨深い季節だ。
**冬(12〜3月)** は雪に覆われた静寂の牧場風景が広がる。厳しい寒さの中でも馬たちは力強く生きており、雪原を歩くサラブレッドの凜とした姿には独特の美しさがある。レ・コード館は冬季も営業しており、暖かい館内で音楽に浸る時間も冬旅の醍醐味のひとつだ。
アクセスと周辺情報
新冠町へのアクセスは、マイカーまたはレンタカーが最も便利だ。札幌から道央自動車道と国道235号線を経由して約2時間、苫小牧からは国道235号線沿いに約1時間30分で到着する。日高地方は公共交通機関が限られているため、牧場ロードを自由に走り回るためにも車の利用が現実的だ。
最寄りの鉄道駅は、JR日高本線の廃線に伴い現在は代替バスが運行されている。札幌からの高速バス(道南バス)も運行されており、バスを利用する場合は新冠バス停で下車後、町内の移動には町内のバスやタクシーを活用するとよい。
周辺には日高地方の他の馬産地エリアも点在しており、浦河町や様似町など隣接する町々と合わせた「日高ドライブ」プランを組むのも人気だ。新冠温泉「レ・コードの湯」では日帰り入浴も楽しめるため、観光の締めくくりに疲れを癒やすのもおすすめだ。宿泊施設は町内に数軒あるほか、浦河町や苫小牧市に宿を取って周辺を広く巡る旅程も組みやすい。
액세스
新千歳空港から車で約1時間30分
영업시간
レ・コード館 10:00〜17:00(月曜休館)
예산
300円(入館料)