高知県の山深い谷間に、人口わずか約800人の小さな村が静かにたたずんでいます。その名は馬路村。日本屈指のゆずの産地として全国にその名を轟かせ、村人の情熱が詰まったゆず加工品は今や海外にまで届いています。この村を訪れる旅は、日本の農村の美しさと食文化の奥深さを五感で味わう、忘れがたい体験となるでしょう。
日本一のゆずの里・馬路村の物語
馬路村は高知県安芸郡に位置し、四国山地の深部、魚梁瀬(やなせ)ダム湖畔に抱かれた山村です。村の面積の96%を森林が占める急峻な地形の中、わずかな平地と棚田の斜面に、数多くのゆずの木が植えられています。
ゆずが馬路村に根付いたのは数百年前のこと。山間の厳しい気候と昼夜の寒暖差が大きい環境が、皮の香り高いゆずを育てる絶好の条件となりました。1970年代、過疎化と経済的な困難に直面した村が起死回生の策として力を入れたのが、ゆずの加工品事業です。馬路村農業協同組合が開発した「ごっくん馬路村」(ゆずジュース)や「馬路村のゆずぽん酢」は、テレビや口コミを通じて全国的な人気を博し、今では村の一大ブランドに成長しました。人口800人の村がなし得た奇跡として、地域活性化のモデルケースとして全国から注目されています。
秋のゆず収穫体験――山の恵みを自らの手で
馬路村でのゆず収穫体験のベストシーズンは、10月中旬から11月末にかけての秋。この時期、緑豊かな山の斜面に黄金色のゆずの実が鈴なりになる光景は、息をのむほどの美しさです。棚田と一体となった段々畑のゆず園は、まさに日本の山村風景の真骨頂といえるでしょう。
収穫体験では、地元の農家さんや農協スタッフが案内役を務め、ゆず畑の歩き方から実の見分け方、正しい収穫方法まで丁寧に教えてくれます。ゆずの木には鋭いとげがあるため、軍手の着用が必須。専用のはさみを使って一個一個丁寧に実を収穫していくうちに、農作業の達成感と、山の新鮮な空気が心地よく染み込んでくるのを感じます。
収穫したてのゆずを手に取ると、そのフレッシュな香りに思わず深呼吸したくなります。スーパーで売っているゆずとは比べものにならない、濃厚でまろやかな香りが周囲に広がります。収穫した実の一部をおみやげとして持ち帰れる場合もあるため、事前に確認してみましょう。
ゆず搾りから加工品づくりまで
収穫体験とセットで楽しめるのが、ゆずの加工体験です。収穫した実を使って、ゆず果汁を搾る体験や、ゆずポン酢・ゆず味噌などの加工品づくりに挑戦できるプログラムが用意されています。
ゆずを半分に切り、手搾り器でギュッと絞ると、たっぷりの果汁とともに清々しい香りが立ち上ります。そこに醤油やみりんを合わせれば、自家製ゆずポン酢の完成です。この体験を通じて、村人たちが大切に育ててきたゆずが、食卓を豊かにするひとさじの調味料へと変わる過程を肌で感じることができます。
馬路村農業協同組合の直営施設では、ゆず関連商品の購入はもちろん、ゆずを使ったソフトクリームや軽食も楽しめます。搾りたてのゆずジュース「ごっくん馬路村」を現地で飲む体験は、市販の瓶詰めとはひと味違う格別の味わいです。ゆずポン酢・ゆずジャム・ゆず化粧品など、馬路村ブランドの豊富な商品が揃うため、おみやげ選びにも時間を忘れてしまいます。
季節ごとの馬路村の表情
馬路村の魅力は秋だけにとどまりません。四季折々に異なる顔を見せるこの山村には、年間を通じて訪れる価値があります。
春(3〜5月)には、村内の清流沿いで山桜やコブシが咲き誇り、瑞々しい新緑が山全体を包みます。初夏(6〜7月)はゆずの花が咲く季節。白く可憐な花が放つ甘い香りは、秋のゆずの実の香りとはまた異なる上品な薫りです。夏(7〜8月)は近隣の安田川での清流遊びが楽しめ、四国山地の豊かな自然をアクティブに満喫できます。清流は透明度が高く、川遊びや魚の観察でひと夏の思い出をつくるのにもってこいです。そして冬(12〜2月)は、雪化粧をまとった山間の静寂の中、温泉につかりながらゆっくりと過ごすのが贅沢なひとときとなります。
馬路温泉と地元グルメを堪能する
体験の後は、ぜひ馬路温泉へ。アルカリ性単純温泉の湯は肌にやさしく、山歩きや農作業で疲れた体を芯から温めてくれます。露天風呂からは山々の緑と清流が望め、都会の喧騒を忘れてゆったりと過ごせます。温泉施設には宿泊棟もあり、一泊してゆっくりと村の夜を楽しむのもおすすめです。星空の美しさは、都市部では決して味わえない格別のものです。
食事では、地元食材をふんだんに使った料理が楽しめます。ゆずを効かせた鍋料理や、山菜・川魚を使った定食は、素朴ながら滋味深い味わい。村のどこでも感じられる温かいおもてなしも、馬路村ならではの魅力のひとつです。旅館や民宿のご主人との会話を通じて、村の暮らしや文化に触れるひとときも、旅の大切な思い出になるでしょう。
アクセスと訪問の前に知っておきたいこと
馬路村へのアクセスは、主に車での訪問となります。高知市内からは国道55号・県道を経由して約2時間、安芸市からは約1時間が目安です。山道が続くため、運転に慣れていない方は余裕を持ったスケジュールを組むことをおすすめします。公共交通機関の場合は、土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の安芸駅からバスを利用するルートがありますが、本数が非常に限られているため、事前に時刻表を確認したうえで訪問してください。
ゆず収穫体験は例年10月から11月にかけて実施されますが、年によってゆずの生育状況や体験の受け入れ期間が異なります。定員が限られているため、必ず事前予約を行いましょう。馬路村農業協同組合や高知県観光情報サイトで最新情報を確認してから計画を立てることが大切です。
山間の小さな村だからこそ生まれた、人と自然と食の深いつながり。馬路村でのゆず収穫体験は、旅の思い出として長く心に刻まれるはずです。
액세스
JR安芸駅からバスで約60分
영업시간
9:00〜15:00(10月〜11月・要予約)
예산
2,000〜3,000円