神奈川県小田原市板橋の閑静な住宅地に、昭和初期の数寄屋建築がひっそりと佇んでいます。旧三淵邸「甘柑荘」は、日本の法曹史に名を刻む人物が晩年を過ごした邸宅であり、歴史と文化と豊かな自然が交差する、知る人ぞ知る小田原の隠れた名所です。
初代最高裁判所長官が愛した別荘
「甘柑荘」は、初代最高裁判所長官を務めた三淵忠彦(1880〜1950)が昭和初期に別荘として建てた数寄屋家屋です。三淵忠彦は、明治・大正・昭和にわたる激動の時代を生きた法律家であり、新憲法のもとで設立された最高裁判所の初代長官として日本の司法制度の礎を築いた人物です。
小田原という地は、古くから文人や芸術家、数寄者(茶の湯や雅楽などの古典芸能を好む人々)たちが好んで移り住んだ土地柄でした。温暖な気候と豊かな自然、そして東京からの適度な距離が、心ゆくまで静養と趣味に没頭できる環境を提供していたからです。三淵忠彦もその一人として、この板橋の地に別荘を構え、職務の傍らで茶の湯や庭造りに親しみながら晩年を過ごしました。
邸宅の名「甘柑荘」は、敷地内に植えられた柑橘類にちなんでいます。蜜柑・夏蜜柑・檸檬・金柑——南向きの明るい庭に立ち並ぶ柑橘の木々は、往時の暮らしぶりをそのままに、今も実をつけています。「簡単ではあるが清楚である」という言葉がよく語り継がれるこの邸宅は、華美を排した凛とした美しさの中に、数寄者ならではの洗練された美意識が宿っています。
数寄屋建築と約300坪の庭園
甘柑荘の建築的な魅力の核心は、昭和初期に建てられた本格的な数寄屋造りにあります。数寄屋建築とは、茶の湯の精神を取り入れた日本の伝統建築様式であり、自然素材を活かした繊細な意匠と、余白を生かした空間構成が特徴です。柱や梁の木組み、障子から差し込む柔らかな自然光、縁側から眺める庭の景色——これらが一体となって、訪れる人を日常とは異なる時間へと誘います。
邸内には茶室も備えられており、数寄者としての三淵忠彦の趣味が建物のあちこちに息づいています。現代の建築では再現しにくい職人の技と素材の温もりを、ここでは間近に感じることができます。
南に広がる芝庭は約300坪の広さを誇り、花木や紅葉が四季折々の彩りを添えます。東側には蜜柑や夏蜜柑、檸檬、金柑、梅などが植えられ、その実りが「甘柑荘」という名の由来ともなっています。庭全体の配置は昭和初期の様式を今に伝えており、歴史的文化的価値と生活の記憶を保存する場として、忠彦の子孫らが協力して保全を続けています。
撮影スタジオとしても活用されており、ドラマ・映画・CMから雑誌・商品撮影まで幅広いロケ利用を受け付けています。自然光の美しさと数寄屋建築の情感が、あらゆる作品に独特の物語性をもたらすと、制作関係者からも高く評価されています。
「虎に翼」ゆかりの地——三淵嘉子との縁
2024年春にスタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」は、日本初の女性弁護士にして裁判官となった三淵嘉子をモデルとした作品です。三淵嘉子は三淵忠彦の義娘にあたり、甘柑荘はその嘉子ゆかりの地でもあります。
ドラマの放送開始とともに、全国から多くのファンや歴史好きの訪問者が小田原を訪れ、甘柑荘への注目が一気に高まりました。忠彦と嘉子という、日本の司法史を彩る二人の人物がともに縁を持つこの場所は、単なる歴史的建造物を超えて、現代を生きる人々にとっても意義深い場所となっています。
「虎に翼」に触発されて訪れるファンに向けたイベントも開催されており、ブックマルシェやワークショップなど、歴史をテーマにした多彩な催しが季節ごとに企画されています。本とパンと映画をテーマにしたマーマレード作りワークショップなど、甘柑荘の雰囲気に合わせたユニークな企画が訪問者を楽しませています。
見学・公開情報と利用案内
甘柑荘は、令和5年度の小田原市民間提案制度(フリー型提案方式)に採用されたことを契機として、2024年4月28日より定期的な一般公開を開始しました。現在は**毎週金曜日・日曜日の午前11時から午後3時**(最終入場は午後2時30分)に公開されています。
入場には維持寄付金への協力が求められており、大人は**1人あたり500円以上**(中高生は200円以上、小学生以下は無料)を目安としています。これは歴史的建造物の保全活動を支えるための寄付であり、500円以上を納めた方には甘柑荘の公式パンフレットが贈呈されます。
建物と庭は貸し出しにも対応しており、茶会・展示会・ワークショップなどのイベントや、前述の撮影利用についても問い合わせ窓口(info@kankansou.jp)から相談可能です。木造家屋の保全を最優先とした活動を続けるため、賛助会への入会も募っており、未来への継承を市民全体で支えていこうという運営姿勢が伝わってきます。
アクセス
甘柑荘へのアクセスは、複数の交通手段を利用できます。最も便利なのは、箱根登山鉄道の**「箱根板橋駅」から徒歩約6分**というルートです。JR・小田急線の小田原駅東口からは徒歩で約22分(約1.8km)と少し距離がありますが、散策がてら向かうのもひとつの楽しみ方です。
バスを利用する場合は、小田原駅東口から箱根登山バス(H・T・TP線)または伊豆箱根バス(Z・J・U・P線)に乗車し「箱根板橋駅」停留所で下車、そこから徒歩6分で到着します。土・日・祝日には「小田原宿観光回遊バス・うめまる号」(年末年始を除く)も利用でき、観光シーズンにはこちらも便利です。
所在地は〒250-0034 神奈川県小田原市板橋822。小田原城下町の歴史的な風情が残るエリアに位置しており、周辺の板橋地区散策と組み合わせて訪れると、より充実した小田原観光が楽しめます。歴史と文化と自然が静かに共存する甘柑荘で、日本の近代史の一幕に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
액세스
箱根登山鉄道「箱根板橋駅」下車徒歩6分 JR小田原駅東口から徒歩約22分(1.8km)
영업시간
金曜日・日曜日 11:00〜15:00(最終入場14:30)
예산
500円以上(大人)、200円以上(中高生)、無料(小学生以下)